教師として自信を持てた瞬間(4)
長井仁

 この分野の話は私が1番苦手とするところで、あまりお話できることがないのです。

 見えなくなって以降というか、その少し前から社会科の担当をしておりました。その前の20年ほどは商業科の教員で、商業簿記や工業簿記などをやっていました。どちらが専門かといわれると私が大学で専攻したのが哲学ですから免許としては社会科の免許になっているわけで、なんとか社会科の科目を担当したいと思っていました。それがようやく実現した頃、失明したという状況でした。

 毎日授業があるのでなんとか授業をやらなければなりません。かといって教科書は見えないし、もちろん資料や年表も見えません。黒板にはなんとか手探りで文字は書けるのですが、書いた文字が重なっていたり、曲がっていないかきちんと読めるかどうかを見ることができないわけです。

 けれど、最初にやらなければならないことは生徒にうそは教えないことです。そのために教材については徹底的に事前準備をしようと思いました。そこから始まるということになるのです。

 しかし、これはかなり厳しい話でした。たとえば、教科書にどういうことが書いてあってそれを把握するためにはどうするかということですが、私は点字がだめですし墨字は読めないし頼れるのは耳だけなのです。

 まず、教科書を全部録音してそれを何回か聞き直しながら教材の内容を理解しました。教材の内容を理解しながら授業の展開としてどうやるかを頭の中で組み立てます。そんなところから始めることになったわけです。

 いいかげんに手を抜くなど生徒の人気などを考えるといろいろなやり方があるとは思いますが、やりながら気づいたのは授業の内容で勝負しようという構えがないと生徒から信頼されないのではないかということです。そこは先ほど後藤先生がおっしゃったことと全く同じ状況です。

 いろいろな先進技術や先進機器がいまのようにまだ現れていない段階ですので、これを実際にやろうとするとテープに頼ってやっていくのは目が見えていたときに使うエネルギーの3倍、5倍、あるいはもっと多いかもしれません。1日2時間なり3時間、あるいは4時間の授業をやって帰ってくるともう精も根も尽き果てたみたいな状況になるのです。

とてもこれではだめかなと思う状況が4月、5月、6月ぐらいまで続き、もうだめだ、限度いっぱいだから明日辞表を出そうなどと思っていた頃に、JVTの大会が7月から8月の初めぐらいにありました。そこでみんなに会うことになり、よし、もう1回やってみようという気になったのです。

 まず、教育実践の1つの足場を授業の内容を深めていき、授業の内容によって生徒の信頼を勝ち得ることに置くよう心がけたのです。


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